2月20日(火)から25日(日)の6日間にわたり、東京・TOKYO FMホールにて舞台『芸人交換日記』が上演された。原作となる鈴木おさむの小説『芸人交換日記 〜イエローハーツの物語〜』(2011年 太田出版刊)は、これまでにも舞台や朗読劇、映画等でメディア化されており、今回は主催であるTOKYO FMにてラジオパーソナリティを務める小森隼(GENERATIONS)と陣(THE RAMPAGE)の主演によって12年ぶりの舞台化。ここでは、全10公演に先駆けて初日公演前に行われた公開ゲネプロと囲み取材の模様をお届けする。
物語の主人公は、結成11年目にして鳴かず飛ばずのお笑いコンビ“イエローハーツ”。所属事務所から与えられた営業や前座仕事をこなして続けてきたお笑いだが、気付けば30歳になり、今後について考えるときが迫っていた。これまで現実から目を背けるように話し合いを避けてきたふたり。お笑いに懸ける想いはあるものの、若手の台頭目まぐるしく、もうあとがない状況であることは誰よりも自分たちがわかっていた。この状況から抜け出したい、なんとかして変わりたい……。そう考える日々の中、ツッコミの甲本が思いつきで勝手に始めた「交換日記」。初めは乗り気でなかったボケの田中も、徐々に本音を綴るようになっていく。そして交換日記を通じて想いをぶつけ合ったふたりは、芸人人生を賭けたお笑いコンテストに出場。するとこのコンテストがきっかけとなり、ふたりの人生が大きく変化していく……。
初日2月20日の昼には公開ゲネプロと囲み取材が行われ、劇中でお笑いコンビ“イエローハーツ”のボケ担当 田中を演じる小森、ツッコミ 甲本役の陣、久美と黄染の二役を務めるアンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)と、企画・脚本・演出の鈴木おさむが登壇。インタビューに答えた。
ゲネプロを終えた感想を問われた小森は「1月末から約1ヵ月、3人で力を合わせて稽古してきたんですけど、本番のステージに立ってみて、稽古場では感じなかったこととか、まだまだ気付くことがいっぱいありました」とコメント。「回を追うごとに、自分の知らない田中にまだまだ出会えるでしょうし、何よりもたくさんの方に観ていただけると思うと本当にワクワクでしかないです。初日を迎えましたが、ここまで来られたのは決して自分ひとりの力ではなく、最後まで全員で力を合わせてやり切りたいなと思う気持ちが今いちばん強いです」と、率直な思いを語った。
相方を務める陣は「以前、朗読劇でこの作品に携わり、その内容にすごく胸を打たれました。グループで活動するなかで、“もしかしたらTHE RAMPAGEの世界線がこうなっていたかもしれない。こうなるかもしれない”と日々考えさせられながら甲本という役をやらせていただいています。皆さんもきっと同じように考える瞬間があると思うので、観てくれた方々の心の中にこの作品が残ったらいいなという想いで、全力で、まずはゲネプロに挑みました。隼も言っていましたけど、最終日までその日その日にしかない舞台の表現がきっとあると思うので、噛み締めながら10公演全力で走っていきたいと思います」と、小森に続く。
今作は、原作者であり企画・脚本・演出を務める鈴木おさむの現役キャリア最後の公演とあり、プレッシャーがあるかと問われると「おさむさんと初めてお会いしたのは自分が22歳くらいのとき。当時の僕はGENERATIONSというグループの中で、個人の“小森隼”が今後どういうふうに成長していくのか、どういう色をつけて、どういう道を歩んでいけばいいのか、悩むことがありました。放送作家業をやめられると聞いたときはやはり衝撃的でしたが、このお話をいただいたときは単純にすごくうれしかったです。僕は『もっとください、もっとください』と、すごく求めてしまうタイプの人間(笑)。なので、表立って褒められたくてここまで一生懸命頑張ってきたみたいなところもあるんですけど、おさむさんと携われるのもこれで最後になるんじゃないかなって思うと、寂しさと、最後の最後にやっぱり大きな丸をつけたいなという自分の決心みたいなものがあります。プレッシャーがないと言えば嘘になるけど、それ以上に、今まで教えていただいたすべてを返せるようにこのステージに立ち、10年後振り返ったときに『あの舞台すごくよかったよ』と言っていただけるように頑張りたいなという気持ちで稽古をやってきました」と思いの丈を伝える小森。
陣は「稽古ではおさむさんから細かく『ここはこうだよ』とアドバイスされることがなく、本当に個性を出してやらせていただいています。僕のことを理解してくださっているので、僕は感じるままにというかエモーショナルに演じていて……。本当にプレッシャーなく、稽古からやりやすい空気を作ってくださいました。そういう形で今日を迎えられたので、自分を信じて、たくさんのものをひとりでも多くの方に届けられるようにしたいです。あとは噛まないように(笑)」とまじめなコメントにもユーモアを含ませた。
最後は、「自分自身を投影しながら田中役を演じさせていただきたいなと思います。たぶん、日々の中で悩みやいろんな選択に迫られている方がたくさんいると思うんですけど、それは僕も同じで……。常に何かの選択をしながら、それが正解なのか間違いなのかなんてわからないし、後悔することもたくさんあると思うんですけど、『一緒に手をつなぎながら前に進めたら』という想いを込めて全力で演じ、この舞台を観てくださる皆さんに、少しでも一歩前に進む勇気を与えられればと思います。この作品によって、日本全国たくさんの方に勇気を届けられるように頑張りたい」(小森)、「この舞台の物語もそうですし、自分が普段アーティストとして活動しているときも、ここ最近の世の中でちょっと不条理なこととか、人と人とが上手く交わらない瞬間とか、そういうことをすごく感じながらいろんなニュースを見たりしてるんですけど……。この作品を見終わったあとに、何かいいなとか、隣の人と抱きしめ合いたくなるような、そういう気持ちにきっと皆さんなってくれるんじゃないかなと思います。隣にいる人に『ありがとう』って言ったりとか、そういうことが自然と出てくると思いますし、皆さんからそういう言葉が出るように、自分たちも心から一言一言を紡ぎながら舞台で演じていきたいなと思います。この今の世の中を少しでも元気に、明るく、生きがいのあるものにできるように精一杯頑張りたいと思います」(陣)と、力強く意気込みを語り、締め括った。
原作小説『芸人交換日記 〜イエローハーツの物語〜』から13年。これまでメディア化された際は、多くのお笑い芸人が出演してきた本作。鈴木おさむの現役キャリア最後となる今回は、鈴木との関係も深い小森と陣がお笑いコンビ“イエローハーツ”を演じた。観れば観るほどに、本当のコンビのように感じられるリアルな距離感とふたりの間に流れる空気は、普段から仲の良いふたりだからこそ描き出されるものだろう。苦悩と葛藤、人を思う気持ち……。観客はふたりの姿に自分を投影し、さまざまな感情に揺さぶられていく。その先で最後にふたりが見せた漫才は、彼らが普段パフォーマーを生業としていることを一瞬忘れさせた。そこには、確かにお笑いコンビ“イエローハーツ”が存在した。ふたりの心地良い掛け合いを、また何度も観たいと思うのは、観る者のエゴだろうか。
Photography_塩崎亨
物語の主人公は、結成11年目にして鳴かず飛ばずのお笑いコンビ“イエローハーツ”。所属事務所から与えられた営業や前座仕事をこなして続けてきたお笑いだが、気付けば30歳になり、今後について考えるときが迫っていた。これまで現実から目を背けるように話し合いを避けてきたふたり。お笑いに懸ける想いはあるものの、若手の台頭目まぐるしく、もうあとがない状況であることは誰よりも自分たちがわかっていた。この状況から抜け出したい、なんとかして変わりたい……。そう考える日々の中、ツッコミの甲本が思いつきで勝手に始めた「交換日記」。初めは乗り気でなかったボケの田中も、徐々に本音を綴るようになっていく。そして交換日記を通じて想いをぶつけ合ったふたりは、芸人人生を賭けたお笑いコンテストに出場。するとこのコンテストがきっかけとなり、ふたりの人生が大きく変化していく……。
「『やろうと思ってた』と『やる』の間には実は大きな川が流れているんですよ」
初日2月20日の昼には公開ゲネプロと囲み取材が行われ、劇中でお笑いコンビ“イエローハーツ”のボケ担当 田中を演じる小森、ツッコミ 甲本役の陣、久美と黄染の二役を務めるアンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)と、企画・脚本・演出の鈴木おさむが登壇。インタビューに答えた。
ゲネプロを終えた感想を問われた小森は「1月末から約1ヵ月、3人で力を合わせて稽古してきたんですけど、本番のステージに立ってみて、稽古場では感じなかったこととか、まだまだ気付くことがいっぱいありました」とコメント。「回を追うごとに、自分の知らない田中にまだまだ出会えるでしょうし、何よりもたくさんの方に観ていただけると思うと本当にワクワクでしかないです。初日を迎えましたが、ここまで来られたのは決して自分ひとりの力ではなく、最後まで全員で力を合わせてやり切りたいなと思う気持ちが今いちばん強いです」と、率直な思いを語った。
相方を務める陣は「以前、朗読劇でこの作品に携わり、その内容にすごく胸を打たれました。グループで活動するなかで、“もしかしたらTHE RAMPAGEの世界線がこうなっていたかもしれない。こうなるかもしれない”と日々考えさせられながら甲本という役をやらせていただいています。皆さんもきっと同じように考える瞬間があると思うので、観てくれた方々の心の中にこの作品が残ったらいいなという想いで、全力で、まずはゲネプロに挑みました。隼も言っていましたけど、最終日までその日その日にしかない舞台の表現がきっとあると思うので、噛み締めながら10公演全力で走っていきたいと思います」と、小森に続く。
今作は、原作者であり企画・脚本・演出を務める鈴木おさむの現役キャリア最後の公演とあり、プレッシャーがあるかと問われると「おさむさんと初めてお会いしたのは自分が22歳くらいのとき。当時の僕はGENERATIONSというグループの中で、個人の“小森隼”が今後どういうふうに成長していくのか、どういう色をつけて、どういう道を歩んでいけばいいのか、悩むことがありました。放送作家業をやめられると聞いたときはやはり衝撃的でしたが、このお話をいただいたときは単純にすごくうれしかったです。僕は『もっとください、もっとください』と、すごく求めてしまうタイプの人間(笑)。なので、表立って褒められたくてここまで一生懸命頑張ってきたみたいなところもあるんですけど、おさむさんと携われるのもこれで最後になるんじゃないかなって思うと、寂しさと、最後の最後にやっぱり大きな丸をつけたいなという自分の決心みたいなものがあります。プレッシャーがないと言えば嘘になるけど、それ以上に、今まで教えていただいたすべてを返せるようにこのステージに立ち、10年後振り返ったときに『あの舞台すごくよかったよ』と言っていただけるように頑張りたいなという気持ちで稽古をやってきました」と思いの丈を伝える小森。
陣は「稽古ではおさむさんから細かく『ここはこうだよ』とアドバイスされることがなく、本当に個性を出してやらせていただいています。僕のことを理解してくださっているので、僕は感じるままにというかエモーショナルに演じていて……。本当にプレッシャーなく、稽古からやりやすい空気を作ってくださいました。そういう形で今日を迎えられたので、自分を信じて、たくさんのものをひとりでも多くの方に届けられるようにしたいです。あとは噛まないように(笑)」とまじめなコメントにもユーモアを含ませた。
最後は、「自分自身を投影しながら田中役を演じさせていただきたいなと思います。たぶん、日々の中で悩みやいろんな選択に迫られている方がたくさんいると思うんですけど、それは僕も同じで……。常に何かの選択をしながら、それが正解なのか間違いなのかなんてわからないし、後悔することもたくさんあると思うんですけど、『一緒に手をつなぎながら前に進めたら』という想いを込めて全力で演じ、この舞台を観てくださる皆さんに、少しでも一歩前に進む勇気を与えられればと思います。この作品によって、日本全国たくさんの方に勇気を届けられるように頑張りたい」(小森)、「この舞台の物語もそうですし、自分が普段アーティストとして活動しているときも、ここ最近の世の中でちょっと不条理なこととか、人と人とが上手く交わらない瞬間とか、そういうことをすごく感じながらいろんなニュースを見たりしてるんですけど……。この作品を見終わったあとに、何かいいなとか、隣の人と抱きしめ合いたくなるような、そういう気持ちにきっと皆さんなってくれるんじゃないかなと思います。隣にいる人に『ありがとう』って言ったりとか、そういうことが自然と出てくると思いますし、皆さんからそういう言葉が出るように、自分たちも心から一言一言を紡ぎながら舞台で演じていきたいなと思います。この今の世の中を少しでも元気に、明るく、生きがいのあるものにできるように精一杯頑張りたいと思います」(陣)と、力強く意気込みを語り、締め括った。
原作小説『芸人交換日記 〜イエローハーツの物語〜』から13年。これまでメディア化された際は、多くのお笑い芸人が出演してきた本作。鈴木おさむの現役キャリア最後となる今回は、鈴木との関係も深い小森と陣がお笑いコンビ“イエローハーツ”を演じた。観れば観るほどに、本当のコンビのように感じられるリアルな距離感とふたりの間に流れる空気は、普段から仲の良いふたりだからこそ描き出されるものだろう。苦悩と葛藤、人を思う気持ち……。観客はふたりの姿に自分を投影し、さまざまな感情に揺さぶられていく。その先で最後にふたりが見せた漫才は、彼らが普段パフォーマーを生業としていることを一瞬忘れさせた。そこには、確かにお笑いコンビ“イエローハーツ”が存在した。ふたりの心地良い掛け合いを、また何度も観たいと思うのは、観る者のエゴだろうか。
Photography_塩崎亨