2024.1.31

The curtain rises
鈴木伸之

  • フリー
2024年新たなスタートを切る鈴木伸之。今回のインタビューでは、これからの意気込みについて話を聞いた。また、2月18日から放送のプレミアムドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』に出演する彼に、役どころや作品の魅力についても語ってもらった。

2024年からは劇団EXILEを離れ、ひとりの俳優として活動をされていることを発表されましたが、経緯や素直なお気持ちを教えてください。


17歳のころから劇団EXILEに加入させてもらって、13年間活動してきたのですが、ちょうど30歳 のタイミングになったときに、一区切りじゃないですけど、ひとりで俳優としてやっていきたいなと強く思うようになったんです。自分のやりたいことや、やりたい作品、なりたい自分みたいなものも10代のころに比べると見えるようになってきたので、それをひとつひとつ形にしていくには、帰る場所というか、保険みたいな場所をなくしたほうがいいなと思ったんです。

相当な覚悟があったんじゃないですか?


ここでもう一回初心に返ってひとりの俳優の前にひとりの人間として、また一からいろんな作品にいろんな方々とご縁をもらえるような自分になっていきつつ、 一生懸命いろんな作品に取り組んで、これからも見てくださる人に応援してもらえる存在になりたいなと思ったのがいちばん大きかったですね。

ちなみに13年というのはあっという間に過ぎた感じですか?


あっという間でしたね。僕は20代 がすごく好きで、20代にいたころもそうだし、今30代になってみてもやっぱりすごく眩しくて。なんか青臭いんだけども、周りを見ず真っ直ぐに突き進んでいける力って二度と帰ってこない時間だと思うんです。その20代を僕は劇団EXILEに捧げて活動させてもらったので、30代は自分ひとりで、40歳を迎えるときにどんな自分になっていたいか、ちょっと逆算もしながら。でも20代のころの真っ直ぐさはなくさずに、あまり先を見据えすぎず、やりたいことやなりたいものに向かって挑戦していける自分でいたいなと思います。

これからまたさらにどんな姿を見せていただけるのか非常に楽しみですが、改めてこれまでさまざまな役を演じてきた中で、俳優というお仕事の魅力ややりがいはどんなところにありますか?


やっぱりいろんな役を演じられますし、同時に役に対して思い描く自分の役像みたいなものがあったときに、それを現場でちゃんとできたかな、逆にあそこをちょっとこうすれば良かったとか、反省も毎回ありますが、なかなか生きていく中でそういった緊張感や刺激は味わえないと思うんです。そして、せっかく残るものなら、その作品にとって自分は必要不可欠だったと言われるような存在に絶対になりたいという想いもあるので、そこはすごくやりがいがあるし、楽しい、飽きないところかなと思います。

毎回毎回新たなゼロからの始まりといいますか。


そうなんですよ。

未知なる境地に挑んでいく怖さみたいなものはないんですか? それよりは、どんな風になるんだろうという楽しさが増している感じですか?


こうやってやったら、こうなるみたいな考えがあまり自分の性に合ってなくて。やっちゃえみたいな感じでいったときに、どうなるんだろうっていう、怖さよりは楽しみがありますね。現場の監督さんとか、音楽でいうとディレクターさんとか、そういう方々がいろいろ舵を切ってくれたり、ブレーキを踏んでくださったりするので、僕はもうアクセル全開で突っ込んでいくだけ。なので、そこに関してはおもしろいですね。やりすぎちゃってもおもしろいし、やり過ぎないとつまんねぇなオレってなるし。そういう非日常的な体験が芝居のいいところなのかもしれないです。

これまで本当にいろいろな役を演じられてきたと思いますが、その中でもっとも印象だった役、作品をあげるとしたら何ですか?


もちろん全部印象深く残っているのですが、ひとつあげるとしたら、TBSのドラマ『あなたのことはそれほど』ですね。20代で不倫夫みたいな役を波瑠さんのお相手役で演じさせてもらいましたが、あの作品を通して僕の名前を知ってくださった方が絶対的に多かったと思うんです。あと、『今日から俺は!!』の三橋のライバルや『東京リベンジャーズ』の武道のライバルとか、そういったライバルの最強のボスみたいな位置づけをしてくださったのもすごく20代の中ではすごくありがたかったなと。いろんな方々にイメージキャラクター作りのようなものをしていただいたので 30代はまた違ったキャラクター、まだ見せてない鈴木伸之という俳優像をしっかり取り組んで見てもらえるような俳優になっていきたいです。

演じてみたいキャラクターや今後は挑戦してみたい作品などはありますか?


20代前半は、恋愛映画みたいなものが当時、流行っていたこともあり、自分も恋愛もの映画やドラマをやってみたいなと思っていたりしていました。でも、30歳になってみて、もちろん恋愛映画もやってみたいなという気持ちはありますけど、それ以上にまだ誰も見たことないような映像とか、これまでの前例がない、ありきたりじゃない新しいプロジェクト作品に参加して、どんな展開になっていくんだろう? って、一緒にワクワクしたいです。

その中で善人と悪人だったら、どちらを演じたいですか?


僕としては、本当は善人をやりたいんですけど、僕が善人だと、さらに屈強な人が悪人として必要になってくると思うので、引き続き悪人で(笑)。でも、いいバランスでやらせてもらってるなと思います。善人でいえば、『自転車屋さんの高橋くん』という漫画の実写化に出演させてもらったんですけど、作品自体、メチャクチャ良くて。実際に自分がやってみないと読まない漫画や作品にたくさん出会ってきたので、30代もそういう新しい自分の刺激になるように、どんどん切り開いていきたいなと思っています。

2月放送のプレミアムドラマ『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』にカメラマン中村昇平役で出演されますが、どんな作品、役柄ですか?


『舟を編む』は元々小説原作の辞書を作るお話なんですけど、日本語が50音もある中で意味の捉え方や書き方ひとつで伝わり方が違うことだったり、紙質にもすごくこだわっていて、めくりやすい紙質にしたり、その過程で日本人ならではのきめ細やかな部分が描写されたドラマになっています。そして、池田エライザさん演じる岸辺みどりという主人公の女性がその中で成長していく物語なんです。僕は1話と2話のゲストで、みどりと付き合っている彼氏という設定で、言い換えれば、カメラマンを夢見ているヒモ男(笑)。池田さん演じるみどりの成長していく過程のひとつのきっかけになる人物なんですけど、僕のクズっぷりはもちろん、このドラマ自体、すごくいい珠玉の作品なので、ぜひ皆さん楽しみにしていてほしいと思います。

ヒモ男という役どころに関してはいかがですか?


基本クズとかワルとかそういうやつばかりなので、もうちょっとまともな役をやりたいなって思うときもあるんですけど、クズはクズで楽なんですよ。地でどんなにクズでいようが、あいつ役作りだよな、って収まりますから(笑)。

ご自身を客観的に見たときにクズ度はどれぐらいあると思いますか?


底辺のクズが0で、すごく頑張っていたり、とても素晴らしい方が100とするならば、5ぐらいですかね(笑)。

100段階の5とは、相当低い査定ですね。たとえば、どんなところが5なんでしょうか?


まず家が汚い。あと、洗濯機を回したり、ご飯を作って食器を洗うのも面倒くさいですし。全般的に面倒くさがり屋って感じです。

多忙だとなおさらそうなってしまいますよね。


でも、それはインタビュー上での自分であって、あえてきれいなときもめっちゃ家は汚いですと言ったり、ご飯をめっちゃ作っていても、全然作らないでUberEatsばっかりですとか、メチャクチャ嘘つきます(笑)。

えっ⁉ 普通逆ですよね。していないものをしていると答えたり、自分をよく見せようとするじゃないですか。


そもそも自分をあまりよく見せようとするのは好きじゃないんですよ。だから、下にみせようと、ハードルを下げておくっていう作業をしちゃっているかもしれないです。こんなもんですっていう腹を見せるわけじゃないんですけど、そっちのほうが楽なんです。逆に鈴木さんってちゃんとされている方なんだなって思われると、相手に緊張させちゃうし、居心地良くしなきゃって思われるとこっちも緊張してしまうので、いちばんふざけている人でいたいというか。全部きっちり答えていくと疲れちゃうので(笑)。

確かに自分を偽るほど疲れますよね。


先ほどの悪役の話に戻るんですけど、初めて僕が悪役を演じたのが、TBSの日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』で。本来は別の役のオーディションを受けたのですが、「悪役をやってみないか」と言われて、そのとき自分が想像していた役者の姿はカッコよくてど真ん中にいる主人公のようなイメージだったので、「えっなんでわざわざ嫌われ役をやんなきゃいけないんだ……」と、当時22、23歳の僕はショックを受けたんです。でも、いざ一歩踏み出してやってみると、すごくやりがいを感じられる出来事が多くて。そのひとつに、街中で僕を見つけた50〜60代の男性がブワーって走ってきて、「『ルーズヴェルト・ゲーム』を見てます。頑張ってください」と言ってくださって。悪役でも認められるんだって自信をもらったんです。そのときに見ている角度が違うんだなって思って、悪役であろうが何でもやっていくのが俳優としての評価、認知につながっていくんだなと、学びになったのを覚えています。

先ほど自分をよく見せようとするのは好きじゃないと言われていましたが、デビュー当時は、逆にご自身をよく見せようと、多少なりとも肩肘張っていた部分があったのでは?


そうですね。よく見せようというのもあったと思うし、よく見せようと思うときほど上手くいかないことが多かった気がします。きっと無駄な力が入っていたんでしょうね。やけに頑張っちゃってる人を見るとこっちも緊張しちゃうけど、頑張ってないやつがいるとちょっとほっとするというか。だから、裏では絶対的に頑張っているんですけど、それを見せないということが大事なのかな、なんて31歳の僕は思っています。

計算の上でのクズということですね(笑)。


本当のクズになってしまったら、さすがにまずいので(笑)。裏で頑張りつつ準備をしつつ、表ではフラットに、みんなに居心地が良く思ってもらえる共演者であり、作品にしていきたいなと思います。

最後に2024年の抱負と応援してくださっているファンの方たちへのメッセージをお願いします。


2024年はいろんな機会で皆さんに見ていただけるように、年明けから一生懸命頑張りたいと思います。いろんな役を通して、日頃の皆さんのちょっとした癒しだったり、エネルギーになっていきたいなと思っていますので、2024年もよろしくお願いします。

DRAMA information
プレミアムドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』
NHK BSプレミアム4K 、NHK BS
2024年2月18日(日)スタート
毎週日曜 22:00~22:49
※全10回
原作/三浦しをん『舟を編む』
脚本/蛭田直美
音楽/Face 2 fAKE
演出/塚本連平、麻生学 ほか
出演/池田エライザ、野田洋次郎 ほか
制作統括/高明希(AX-ON)、訓覇圭(NHK)
プロデューサー/岡宅真由美(アバンズゲート)、西紀州(AX-ON)

photography_前澤亮介
styling_Jumbo(SPEEDWHEELS)
hair&make_下川真矢(BERYL)
text_星野彩乃