2023.11.2

SHELL
石井杏奈

  • フリー
11月11日(土)からKAAT神奈川芸術劇場にて舞台『SHELL』が開幕する。倉持裕氏と杉原邦生氏という注目の初タッグで、現代を舞台に特異な人間が存在する不思議な世界を描く青春ファンタジー。今作で、とある高校に通う生徒・希穂を演じる石井杏奈にインタビューを敢行。役に対しての想いや公演への意気込みについて話を聞いた。

『SHELL』の台本を読みました。これまで聞いたことも見たこともない、不思議な物語ですね。


本当に不思議なんです(笑)。

資料には「性別も年齢も違ういくつもの人生を、いくつもの顔を持って同時に生きる特異な人々が登場する摩訶不思議な世界」……と、ありますが。最初に台本を読んだときの率直な感想は?


これはどういう話だろう? と思いました(笑)。前半は普通の高校生の日常を描いているのに、主人公の未羽が同級生の希穂の“異変”に気付くところから、ファンタジー要素が強くなっていきます。そのあたりから、どんどん難しくなって、1回目を読んだときは本当に不思議すぎてあまり理解できませんでした。でも2回、3回と読み返していくうちに物語のなかに織り込まれている、高校生同士の友情の形や男友達との関係性、自分との向き合い方などが、ファンタジーだからこそ、より大きくなっていくんです。なので、読めば読むほど多感な時期である高校生が一生懸命いろんな問題に悩み、考える姿が素敵だなという気持ちが強くなっていきました。

ファンタジー要素があることで、10代特有の瑞々しさがより際立ち浮かび上がってくるということですね。そして、石井さんが演じるのは、その中のひとり、先ほど名前が出た希穂という女子高生で「特異な人々」として生きる女の子。どのような役作りをしようと考えていますか?


物語として読んだときは、希穂を理解するのに時間がかかってしまったのですが、希穂の気持ちだけを読むと理解できないことはないと思いました。「特異な人々」のファンタジーな世界と自分は、一見かけ離れていますが、考えてみたら、私も役者としてさまざまな人物を生きているので、少し通じる部分があります。たとえば、希穂のなかには高木さんという中年男性が存在していて、「高木さんの気持ちや生きてきた概要がわかる」と希穂が話す場面があるのですが、それも何となくわかる気がします。もし自分だったらと考えたとき、私も刑事役のときはクールな人物を生きたり、ワインソムリエの役では陽気なキャラクターになったり、役を演じているときはある意味、多重人格になっているので、希穂のことも何となく、その感覚で捉えていました。

確かに役者さんにしてみれば、まったくの別人が自分のなかに存在していることが、ある種の日常なんですね。


そうなんです。なので、自然に自分自身を重ねることができました。

でも、高校生役は久々ですよね?


久しぶりです。もしかしたら、これが最後かもしれないというのもあって、まず「高校生ってどんな感じだったかな?」と記憶を呼び起こすところからのスタートでした(笑)。前まではその段階を飛び越えて、すぐにありのままの役として生きようとなれたのですが、卒業してから7〜8年は経っているので、やはり感覚を忘れていて。あのころの、箸が転がっても笑えるぐらいのキャピキャピした感じを思い出すようにしています。

でも石井さんの場合、『砕け散るところを見せてあげる』をはじめ、ドラマでも映画でもインパクトの強い高校生役を演じられていたので、制服姿のイメージは未だに鮮烈に残っています。


それはいろんな方に言っていただきますが、私、もう25歳なんです(笑)。『砕け散るところを見せてあげる』を撮ったのも5年前ぐらいですし、最近は社会人になって働く役が多くなっているので、やはり高校生の役から離れている感じは体感的にあります。

体感を含めて、自分が変わった、成長したと感じるのはどんなところですか?


自立したかもしれないです。自分で自分の感情を処理できるようになりました。前は、まだ自分のことが何もわかっていなかったので、とりあえずいろんな人の話を聞いて「この人のこの部分を自分にも取り入れてみよう」としていたのですが、最近はそういう他者との関わりを少しずつ減らしまして。自分が関わりたい人だけ関わるという方向性にしたら、安定感が増して感情の処理がしやすくなった気がします。ですから、今はもう誰かに相談するということもほとんどなくなりました。今後の仕事のビジョンに関しては事務所の方たちと話し合いますが、個人的な悩みあまりは人に話しません。かといって、別に隠しているわけではないんですけど……。

自己完結しちゃうと。


自分で完結してしまいます。今は自分のことを話すより、人の話を聞くほうが楽しいです。

舞台の話に戻りますが、稽古が始まるのはこれからですか? (取材時は9月)


来月からです。キャストの方ともまだ顔合わせをしていないのですが、同年代の方が多いですし、内容的にも個性が立った登場人物たちが他愛のない話をする会話劇がたくさん出てくるので、その感じで常にいられたらいいなと思います。みんなでワイワイ話しつつ、楽しく過ごせる現場になったらいいですね。

劇中の会話シーンはすごくリアルに描かれていますよね。ひとつの話題に対してみんなが勝手に話して、とりとめない感じが高校生の日常会話っぽいと思いました。


学生の“あるある”ですよね(笑)。そういう日常会話が繰り広げられていく感じは舞台というより、ちょっと映画のようなところでもあって、できるだけ自然なやりとりができたらいいなと思っています。あとは演出家さんや周りのお芝居の仕方、その色に染まっていけるようにしたいです。

映像と舞台だと、取り組み方や心構えの違いはありますか?


基本は同じで、映像だから、舞台だからと何か変えることはしていないです。どちらも自分の持っている武器たちをいかに全力で使えるか、それしかなくて。あとは演出家さんや監督さん、共演者の皆さんからいろんなアイテムをもらって、より強く戦っていくという、そのやり方はいつも一緒です。

RPGっぽい表現がすごくわかりやすいです(笑)。そのなかでも舞台ならではのおもしろさを挙げるなら、どんなことでしょうか?


最初から最後まで集中できることです。映像作品はクライマックスのシーンを最初に撮ったりするので、「もしかしたら最後に撮ったほうが気持ちの入り方が違っていたかもしれない」など言い出したらキリがないのですが、舞台はそういう「もしかしたら」が一切ないので。絶対に一から順番にお芝居していくので、気持ちが自然に入っていくところは舞台をやっていていちばん楽しいところです。

役者さんのなかには、年に1回でも舞台をやると“整う”という方がいらっしゃいますが、石井さんはそういった部分はありますか?


私はまだ“整う”ところにいける余裕は全然ないです。「舞台はこれで合っているのかな?」と、常に模索状態のなかでやっているので、今の自分の実力を試す機会であり、終わったあとに自分がどれだけ成長できているかを知る場といいますか。自分のお芝居の幅がどれだけ膨らんだか、結果を求めて舞台をやっている感じです。なので、定期的にやると特に決めているわけでもなくて、「この作品を集中してやりたい」というときに挑むようにしています。


1回1回の舞台経験を糧にしている段階なんですね。今作の役に関しては先ほど「役者にも通じるものがある」とおっしゃっていましたが、作者の方はこの物語にどんなメッセージを託していると思いますか?


私も正直、まだちゃんとわかっていないのですが、なぜストーリーの軸が高校生なのかというところが、自分のなかでは結構大きなポイントだと思っています。大人になりきれていない多感な時期、これから大人になるぞという年ごろの子たちが、自分で自分の意思を伝えなくてはいけないですし、考えなくてはいけません。それはとても重要で、みんな失敗を恐れて最初から考えなかったりすることが多いじゃないですか。でも、考えることはとても大切です。ですから、「特異な人々」がいるファンタジーな要素を題材にした作品ではありますが、それは題材にすぎないのかなと思っています。誰もが高校時代に親や友達のことで悩み、そのたびに考え解決してきたからこそ、今があるよねというメッセージを私は感じました。

それぞれが、自分の高校時代を思い出すきっかけにもなりそうですね。


私自身、10代のころの自分を思い出しましたし、同時に今の自分は考えることをしているかな? と思ったので、どんな年代の人も自分自身と向き合える作品になるのではないかなと思います。

あと台本を読むと、同級生同士でも精神年齢がそれぞれ違うといいますか。高校生がゆえにその差がはっきり出ていて、その住み分けもリアルに描かれていると思ったのですが、石井さん自身はどの役にシンパシーを感じましたか?


やはり希穂ですね。私も高校時代は大人数で集まったとき、どちらかというとみんなの話を聞いているほうで、でも、何か違うと思ったら「それは、違うのでは?」と自分の意見をはっきり言うことに徹していました。そういうところは希穂にいちばん近いと思います。

口数はそんなに多くないけど、言うときはズバッと言うタイプと。


今もそれは変わらないです。もちろん言わなくていいことと言うべきことの区別はつけますが、「これは言うべき」と思ったことはちゃんと言います。

それはわかるかもしれません。E-girlsのときから石井さんの言葉は重みがあるといいますか。いつも核心を突いていた印象がすごくありますが、ご自身でも、それを感じる場面はありませんか?


重みがあるかどうかはわからないですが、『チア☆ダン』というドラマをやっていたとき、部活のメンバーが20人いて。チームワークが大事だということで、みんなで集まって一人ひとり意見を言ったのですが、私の意見に共演者の子たちが「すごく響いた」と言ってくれまして。私は「E-girlsにいるとき、自分はこういう気持ちだった」ということを伝えただけなのですが、実際に経験していることだからこそ説得力があって、みんなに響いたのかなと思いました。

ちなみに、今作のように、まったく違う人物の人生を生きるとしたら、どんな人になってみたいですか?


飼っている犬になりたいです。

犬⁉︎ 意外すぎる答えでした(笑)。


うちの仔がどんな気持ちでご飯を食べ、どんな気持ちで遊んで、どんな目線で生きているのか、いつも気になっているので、なれるなら犬になりたいです。その理由は、人間は嫌なことをわざわざ自分から見たりしますが、犬はそんなことをしないですし、どうしたらあんなにピュアになれるんだろうと、それを感じてみたいです。

では、今後の石井さんの夢や目標は?


死ぬまでお芝居をしていたい、幸せな家庭を築きたい、こういう作品に出たいなどの漠然としたものはたくさんあります。ただ「こういう女性になりたい」という自分自身に対しての目標はないです。自分は自分で肯定するしかないので、とりあえず褒めて伸ばしていくタイプです(笑)。その考え方が自分の性格に合っているんだと思います。

石井さんの“ブレない理由”が少しわかった気がします。最後に応援してくださる皆さんへメッセージをお願いできますか?


25歳という節目にあたって、『SHELL』という舞台に立たせていただくことになりました。この作品では、25年間経験をしてきたこと、そして、本や映画で疑似体験してきたことも全部自分のものにして、お伝えしていきたいと思っていますので、ぜひ劇場に観に来てください。


STAGE information
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『SHELL』
11月11日(土)〜11月26日(日) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
料金/S席¥6,800、S席平日夜割¥6,500、A席¥4,800、神奈川県民割引(在住・在勤/S席のみ)¥6,000、U24チケット(24歳以下)¥3,400、高校生以下割引¥1,000、シルバー割引(満65歳以上)¥6,300(全席指定)
その他、京都公演あり
作/倉持裕
演出/杉原邦生
音楽/原口沙輔
出演/石井杏奈 秋田汐梨
石川雷蔵 水島麻理奈 成海花音 北川雅 上杉柚葉 キクチカンキ 香月彩里 近藤頌利 笠島智 原扶貴子 岡田義徳
藍実成 秋山遊楽 植村理乃 小熊綸 木村和磨 古賀雄大 出口稚子 中沢凜之介 中嶋千歩 浜崎香帆


photography_興梠真穂
styling_二宮ちえ
hair&make_八戸亜季子
text_若松正子

【衣装クレジット】
《BEIGE》のニット¥29,700、ジャケット¥74,800、パンツ¥48,400(すべてオンワード樫山 お客様相談室)
《Lana Swans》のイヤリング¥24,200、リング¥30,800(ともにSUSU PRESS)
シューズ・スタイリスト私物

【お問い合わせ先】
オンワード樫山 お客様相談室
0120-58-6300

SUSU PRESS
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