2025.10.31

小森隼の小盛りのハナシ 2025
小森隼

  • GENERATIONS FC対象
  • 一部フリー
スタートから5年。小森隼のライフワークとなっている『小森隼の小盛りのハナシ2025』が6月に開催された。自身で脚本を書き、自身の話芸だけで2時間弱のステージを展開する。トークライヴは数あるエンタメのなかでももっともチャレンジングなジャンルで、「信じられないくらい命をかけて」挑んできたが、今年はさらにアーティスト人生を賭けた大きな挑戦を果たした小森。そこで語られた生身の姿、そしてそれを見事エンタメに昇華させた渾身のステージを振り返る。


今年で5回目、そして初の関西公演を経て関東公演最終日を迎えた6月29日。『小森隼の小盛りのハナシ』(以下『小盛りのハナシ』)の“戦闘服”であるタキシードで登場した小森は「今回は5年目の節目。しかも4公演あってすごいプレッシャーだった」「命をかけ覚悟を持って挑む」と満員の観客席を真剣な眼差しで見渡す。だがすぐにいつものリラックスした雰囲気に戻り、まずは先の関西公演のエピソードへ。初日の関西公演は、同じく関西でBALLISTIK BOYZとFANTASTICSのライヴが重なっており「しっちゃかめっちゃかのなか(自分は)ひっそりライヴを行った」話やBALLISTIK BOYZに神戸の老舗店のカツサンドを差し入れして喜んでもらった話、さらに帰りの新幹線でコーヒーを買ったら販売員の人が「素敵な対応」でミスをフォローした話……などなど、よどみない語り口でオープニングトークは完璧。観客の心をがっつりホールドして本編へと引き込んでいくトークスキルは、もはや熟練した匠の域だ。


本編1杯目のお題は「嫉妬…からのハナシ」でいきなり先輩の三代目J SOUL BROTHERS山下健二郎への“嫉妬”をぶっちゃけ。山下が単独トークツアーを行うというニュースで「LDHでは初の試み」と報道されており「え? オレはもう5年目よ⁈」とモヤモヤしてしまったのこと。でもそこから山下を追っかけはじめ、SNSもすべてチェックし、気付けば「完全ファンの行動に(笑)」。「勝手に嫉妬して心で負けていた」「でもそれくらいトークライヴは自分にとって大切な場所」と率直な心情を明かした。2杯目の「『MY GENERATION』のハナシ」は憧れのASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)の後藤正文に楽曲提供をお願いしたエピソードとその後日談。当然断られるだろうとダメ元でオファーしたらまさかのOKがもらえたこと、最初のリモート打ち合わせで頭が真っ白になったこと、後藤の返事が「はい」のみで、打ち合わせでの立ち回りが大丈夫だったかなと反省したことなど、舞い上がったり落ち込んだり、当時のテンパりっぷりがリアルに伝わってくる。けれど後日、“オファーを受けた理由”をラジオ共演の勢いで聞いたとき、後藤は「小森くんにはいつもアジカンへの愛をもらっているから断れないよね」と話したという。それを聞いて「カッコいい! 自分も後輩のグループにオファーされたら無言でさらっと受けたあと、ゴッチ(後藤)さんと同じ言葉を言う(笑)」と胸熱展開で始まった話をクスッと笑えるオチへと着地させた。


3杯目の「印象に残るって難しいハナシ」は2024年にLDHアーティストの中で地上波テレビ出演1位の快挙を成し遂げた話から「いかに隙間で印象を残すかが大切」という話へ。「今年はLDH内でいちばんテレビに出たと誰から見ても印象に残る人間になる」と自らハードルを上げて宣言する場面も。続く4杯目の「この世界で勝てないハナシ」ではバラエティ番組『それSnow Manにやらせて下さい』(TBS系)の人気企画「9人ダンス日本一決定戦」参加の話からスタート。自身がリーダーを務め、中務裕太(GENERATIONS)らとともにLDHチームとして出場したのだが、結果は5組中3位。「力が抜けた」「ダンスで結果を残せなかった悔しさで涙が止まらず車中でも号泣していた」と話す。だが直後のラジオ番組はノリノリで本番収録し、その夜は「喜怒哀楽を全部出し切って気絶するように寝た」。1日でどれだけメンタルをすり減らしたか、心の動きが手にとるように伝わってくる。さらに話題は憧れの人・ナインティナインの岡村隆史とのエピソードに変わり、岡村とはなぜか自身の分岐点になるような瞬間に仕事をすることが多く、その度に励まされるという心温まる話へ。最後は「岡村さんのようなスターになりたい」とリスペクトの言葉で締めくくった。


ハイカロリーな話題が続いたあとは、ちょっと軽めの「別にどうでもいいハナシ」で箸休めタイムへ。NHKの食堂では唐揚げ定食が“洋食”、とんかつ定食が“和食”にカテゴライズされているが「とんかつが“洋”で、からあげが“和”じゃね?」と本当にどうでもいい、でも小森らしいニッチな疑問に観客も笑いながらうなずく。続いて「本を出しませんか」というKADOKAWA編集者のDMを詐欺メールと疑った話、でもそこから初の書き下ろしエッセイ『「大丈夫」を君に届けたい』の出版へとつながった話、ジェットコースターにも乗れない高所恐怖症の小森がスカイダイビングに挑戦した話、30年ぶりにボイトレに行った話など次から次へとネタは尽きない。しかも『小盛りのハナシ』は第1弾からそうなのだが、本音のみの正真正銘ノンフィクションなので軽めの話も重めの話もとにかく芯を食っている。そのため喉越し良く腑に落ち、きれいごとが一切ない“完全無添加”なのでおいしいのはもちろん身体にもいい。そんな旨味とコクの詰まった台本を書き上げ、エンタメに仕上げる努力と苦労は計り知れず、それこそ小森が「命をかけ覚悟して挑んだ」証しだろう。


そして今回その真価がもっとも発揮されたのは「大盛りのハナシ」だ。ここで語られたのは「これまで言わなかったハナシ」で「2019年からパニック症候群を発症した」というまさかの告白。「心の病気は言いづらい。でも話すことで同じ病気の人の背中を押せればと思い、話すことにした」と語り出し、24歳のときにめまいの発作が始まったが最初は受け入れられなかったこと、薬の副作用がつらかったこと、それでも我慢して誰にも言わず仕事を続けてきたことなど、これまでの経過をありのまま感情を抑えながら話す姿に場内は静まり返る。発症から数年後に母親に病気のことを告げたとき「あなたの心が壊れるほどがんばってほしくない」と言われた話になると、堰を切ったように会場中からすすり泣きの声が漏れたが、それでも淡々と言葉を重ねていく。その姿からはこの告白を「悲しくてつらいハナシ」にしたくないという強い想いを感じた。


そして「めちゃめちゃ勇気がいったけど、話すことで一歩前へ出られた」と長い語りを終え、ほっと息をついた表情にはようやく大きな荷物を下ろしたすがすがしさと達成感が浮かぶ。本編ラストではベースを弾きながら、アジカンファンになるきっかけとなった曲「マーチングバンド」を自ら歌唱。続く2曲目の「MY GENERATION」では手拍子とともに会場がひとつになり小森も観客も満面の笑顔を見せた。


戦闘服のタキシードからラフなTシャツ姿に着替えて再登場したアンコールでは「千秋楽なのに歌がボロボロ(苦笑)」とまず反省。でもそんな人間くささもまた『小盛りのハナシ』でしか味わえない出汁の利いた旨味だろう。終盤には今公演を振り返り「今年のテーマは戦い。その裏には自分との戦いもあり、覚悟を決めて話した」「複雑なのが人間。今日のハナシが一歩進むきっかけになれば」と一語一語を噛みしめ言葉をつなぐ。そして「我々には生きるという選択肢しかない。精一杯生きてまた会いましょう」と客席に向かって手を振り、最終公演を終えた。5年目となる今回、あえて影の部分に光を当て、これまで以上にその存在を輝かせ、聴く者の心を照らした小森。事前インタビューで「公演が終わった瞬間、次の公演のことを考えている」と話していたが、次はどんな光を灯すのか。来年の公演がもう待ち遠しい。


Photography_塩崎亨
Text_若松正子

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