2025.10.2

火喰鳥を、喰う
小野塚勇人

  • 劇団EXILE FC対象
  • 一部フリー
小野塚勇人が出演する映画『火喰鳥を、喰う』が10月3日に公開される。本作は第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞の同名小説を映画化したミステリーで、小野塚が演じるのは物語のキーとなる軍人・久喜貞市。第二次世界大戦末期の極限下、生への執着と飢餓による狂気で変貌していく芝居は凄まじく、リアリティを持たせるため「これまでいちばん追い込んだ」とのこと。インタビューはそんなハードな役作りを含めた今作の話題から人間の欲=執着について、さらに聞いて驚いた自身の恐怖実体験まで濃いエピソードが満載。だが、いちばん印象に残ったのはヘビーな内容でも終始達観し飄々と話す語り口で、何があっても動じない姿勢に“俳優・小野塚勇人”のすごみを感じた。


『火喰鳥を、喰う』は観終わったあとも言葉にならない恐怖が湧き上がり、気持ちがザワつく作品。原作小説の考察記事を読み漁ってしまったのですが、影の主役はやはり小野塚さんが演じた軍人・久喜貞市ですね。


貞市の日記から始まる物語なのでキーになる役ではありますよね。「また軍人役?」って思いましたけど、それは置いといて(笑)、場面も少ないしセリフで何かを物語る役ではないので、とにかく生々しくやりたいなと思いました。

「生々しく」とは?


こんな表現がいいのかわからないけど、軍人でも神風とか特攻とは貞市の戦死はまた異なる壮絶なものなんです。彼は約2年間パプアニューギニアのジャングルをサバイバルするのですが、実際に同じ体験をした方たちの資料を読むと飢えによる極限状態でここでは言えないくらい過酷な体験をされていて。人間というより動物の生存本能だけになっていく感覚といいますか。いつ助けが来るか敵に襲撃されるかもわからないなかでじわじわと弱り、劇中でもあるけど身体に蛆が湧いてもふり払えないくらい疲弊しながら亡くなった方もいたらしいんですね。でも、貞市はそんななかでも生きたい執念が人一倍強かったという役なので、それが生々しく滲み出るようにしたかったんです。

役作りはどのように?


時代背景を頭に入れ、芝居ではなくリアルに自分を極限状態へ持っていきたかったので3週間で6〜7kg体重を落として撮影の3日前から絶食をしました。しかも、酵素とか飲んで健康的に痩せちゃうのはダメだから最後の3日間は水と塩だけ。前日にはサウナで水抜きもして倒れないギリギリまで絞りました。


3日間、水と塩だけにするとどんな状態になるんですか?


お腹が空きすぎて寝られなくなります。なので、夜中に爆食する動画とか観て「撮影が終わったらこれくらい食ってやろう」ってモチベーションにしていたんですけど、とにかく食のことしか考えられなくなる。「お腹空いたお腹空いた」ってずっと負のループになるから、それを紛らわすために違うことをやるようにしていました。あと、感覚が研ぎ澄まされます。特に嗅覚は鋭くなって隣の楽屋の弁当の匂いもわかるぐらいに。だから、撮影中の昼休憩が大変。ホットミールが出たんですけど、すごくいい匂いで。でも、自分は食べられないから楽屋にこもって「絶対中華じゃん」って思いながら我慢していました(笑)。

聞いているだけで辛いです。劇中の異様にギラギラした目つきはリアルだったんですね。


あの場面、あの状況にいるような感じにならないと説得力が薄くなるので自分なりのベストパフォーマンスで挑みたいなと。さっきも言ったようにこの映画は貞市の執念が根源的なキーの部分なので、それを出すためなら地獄ぐらい辛くてもいいやって勝手に責任感を持ちながらやっていました。でも、撮影期間が2日間だったのでできたんだと思う。これが2〜3ヵ月続くならもうちょっと減量方法は変えていたかもしれないです。

お芝居について本木克英監督からオーダーは?


ほぼ何もなかったです。僕自身、身体が本当にしんどかったので、自然に極限状態の芝居になっていたというか。演じようと思わないマインドになるようコントロールしていたし、実際そうなっていたので自分ができることはやったっていう手応えはありました。監督も試写会のとき、「もうちょっと貞市のシーンを増やせば良かった」って言ってくれたので全部が上手く噛み合ったのかもしれない。ただ自分としては思ったよりも「頰がコケてねぇな」って。もうちょっと落とせば良かったなって思いましたね。

自分に厳しい。顔つきも醸し出す空気感も極限の軍人そのものでしたが。


自分で言うのも何ですが、戦争ものをやりすぎて「本当にこういう軍人さんがいたんじゃないか」って顔つきになっていて。友達からも「軍人俳優」って言われるので昭和顔なんですかね? 肌の色も焼いてるわけじゃなく、元が黒くて海とか行かなくても移動だけで焼けちゃうから軍人っぽいのかもしれない。(主演の)水上(恒司)くんとも『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』以来の共演だったんですけど、現場で『また軍服を着て違う作品やってるね』って話をしておもしろかったですよ。


今作は戦時下で書かれた貞市の日記が水上さん演じる久喜雄司など現代を生きる子孫たちに影響を与えるというミステリーですが、小野塚さん自身の見解は?


別の世界線が存在するような話は昔からあったけど、この映画は過去の世界線によって現実が引っ張られるっていう視点が新鮮ですよね。最初はホラー感があるけど、だんだんSF的な展開に変わり壮大になっていくから最後まで飽きないし。物語の根本には人間の果てしない欲と執着というしっかりしたテーマがある。全ジャンル取り寄せた“全部乗せ丼”みたいな欲多き作品で、最後マカロニえんぴつさんのエンディングソング「化け物」まで含め、いい意味でカオスというか。そこで完全にピースがはまり完結するっていうジャンルを括らないおもしろさがある作品だと思います。

“果てしない執着”の発端となった貞市の生への執念は理解できますか?


理解というか、執着や執念は我慢すればするほど強くなるんだろうなっていうのは自分も減量したときに感じました。実は僕、減量中は「撮影が終わったらラーメン食ってハンバーガー食って好きなものを好きなだけ食べてやる」って思っていたんです。でも、いざ食べられるってなったら特に食べたかったわけじゃないのにスーパーの海鮮丼を間違えて食べちゃいまして……。

何で間違えたんですか?(笑) というか、いきなり固形物を食べたらダメじゃないですか?


ダメだけど大丈夫でした(笑)。撮影最終日に友達と飲む予定がありまして、空きっ腹にビールを飲んだらぶっ飛んじゃうから、何かお腹に入れなきゃと思って。とりあえず、海鮮丼を買って。「(最初の食事は)絶対これじゃないよな」って思いながら食べていたっていう(笑)。でも、食べていいってなったら急に「何でもいいや」ってどうでもよくなってしまったんですよね。だから、欲望や執着、飢餓感は縛れば縛るほど強くなるのかなと。アイドルの恋愛と一緒で禁止されると余計したくなるみたいな、自由なら意外とそんな気にならないんだなって実感しました。

MOVIE information
『火喰鳥を、喰う』
10月3日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
出演/水上恒司、山下美月、森田望智、吉澤健、カトウシンスケ、豊田裕大、佐伯日菜子、足立正生、小野塚勇人、麻生祐未/宮舘涼太(Snow Man)
監督/本木克英
脚本/林民夫
原作/原浩「火喰鳥を、喰う」(角川ホラー文庫刊)
配給/KADOKAWA、ギャガ
企画・制作/フラミンゴ
制作協力/アークエンタテインメント
©2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
https://gaga.ne.jp/hikuidori/


photography_興梠真穂
styling_大川好一
hair&make_Emiy
text_若松正子

【衣装クレジット】
THE TOKYO

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