2025.9.18

SPY×FAMILY
山口乃々華

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インタビュー時(8月中旬)、ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』の公演と次のミュージカル『SPY×FAMILY』の稽古を並行して行っていた山口乃々華。多忙な時期にも関わらずその表情に疲れはいっさいなく、ウェンディを演じる楽しさや自身初の再演作品となる『SPY×FAMILY』への意気込みを生き生きと語る姿には日々の充実感がみなぎっていた。その一方で常に初心で挑むマインドを失わないのも彼女らしいところ。新たなチャレンジへの高揚感、ほんの少しの不安、自分の想いを語る際のちょっと照れた笑顔はいつインタビューしても変わらない。今回もそんな山口に和み、癒され、元気をもらえた。


『ピーター・パン』は東京、群馬公演を終えたところですが念願だったウェンディ役を演じた感想は?


楽しいです。ウェンディはピーター・パンがお客さんたちに見せてくれる景色をいちばん近くで感じることができる存在。そんなウェンディに自分は本当に憧れていたんだなって身をもって実感しています。ピーター・パンを演じる(山﨑)玲奈ちゃんが目をキラキラさせながら「オレについてこい」「ネバーランドはこんなところなんだよ」といろんな景色を見せてくれるんですけど、その目の輝きが美しすぎて見ているだけで感動する。ジワーッて奥から涙が出てくるような感覚になるんです。ウェンディは13歳くらいの設定なので、私自身はもう子どもではありませんが、個人的には心の内側の乃々華が童心に返って「うわ、こんな世界が見たかった!」って気付きをもらえる時間で、舞台に上がるたびすごく楽しいです。

ウェンディ役はこれまでいろんな俳優さんがそれぞれのカラーで演じている役柄。前回のインタビューで「自分なりのウェンディを見つけていく」とおっしゃっていましたが見つかりましたか?


自分的にはそんなに意識したつもりはないんですけど、周りからは「こんな元気なウェンディは初めて見た」って言っていただいたので、私らしさはプラスできたのかなと思っています。これまでは皆さんわりと落ち着いたしっかり者のウェンディを演じてこられたらしく、でも演出家の長谷川寧さんと「子どもっぽくはしたくないけど、子どもらしさというものはどこに宿るんだろうね」とお話をしました。そこから私なりに研究した結果、元気に走り回ったり何に対しても好奇心旺盛な部分が「子どもらしさ」なのかなと思いまして。それがプラスの原動力になり活発でエネルギッシュなウェンディになったのかなと思います。

山口さんが新たに作ったウェンディ像ですね。


ウェンディはいろいろな方が演じていらっしゃるので、もしかしたらそういう像もあったかもしれないけど、これまでのイメージとはかなり違うみたいです。それがいいのか悪いのかはわからないけど、とりあえず「元気なウェンディ」と言ってもらえたのはうれしかったです。

楽しみにしていたフライングはいかがでしたか?


気持ちいいです。でも実はフライングチームのスタッフさんたちが舞台袖で頑張ってワイヤーを引っ張ってくれて、そのスタッフさんたちの重さで私たちが飛べているんです。

スタッフさんたちの重さ?


スタッフさんたちが毎回梯子から飛び降りて、その反動で私たちがブイーンって上がる仕組みなんです。

そんな人力なんですか?


何十年間もずっと人力です。といいますか、舞台って意外と全部人力で『SPY×FAMILY』の回転テーブルなどは機械ですけど、それも劇場によって人力のときもあります。

ちなみにフライングの際のワイヤーがほとんど見えないのも驚きました。装着のタイミングもまったくわからないから本当に宙を飛んでいるように見えるっていう。


(ワイヤーが)すごく細いですよね。聞いたら『ピーター・パン』で使っているワイヤーはびっくりするほど細いみたいで、あの細さで感覚を保てるのもすごいし感覚を保たせるようワイヤーを扱っている方もすごい。そういう意味で『ピーター・パン』は特殊らしいです。しかもピーター・パンだけは宙で回転もするので“2点吊り”(2ヵ所で吊り上げる)なのですが、ウェンディたちは“一本吊り”。みんな、なかなかハードです。


スタッフさんたちの努力と技術の賜物ですね。


本当にそうです。私たちが円滑にお芝居できるのはスタッフさんのおかげです。

今回はお子さんに向けての作品という面もあったと思いますが、演じるうえで何か気をつけたことは?


特になくてむしろ子ども向けっぽくしたくないと言われました。笑いとかはわかりやすくシンプルにはするけど子ども受けを狙いすぎないというのが長谷川寧さんのこだわりで、大人でも楽しめる『ピーター・パン』でありたいという想いがありました。なので、途中で泣き出しちゃう子や思ってもみない言葉が出てきたり本番中はいろいろびっくりすることもありましたけど、そっちに意識を向けすぎないことのほうが私たちにとっては大事。何があってもタフに芝居を続けるって精神が養われた気がします。でもピーター・パンが出てきた瞬間「ピーター・パンだ!」と喜ぶお子さんの声はやっぱりかわいい。2幕の最後で、ピーター・パン役の玲奈ちゃんが客席に向かって「信じるって言って!」って言うと「信じる!」って返してくれたり、味方がいないフック船長に「フック船長頑張れ!」って言う子もいて、感じ方が本当に自由というか。子どもたちが思い思いに言葉を出してくれるのはこの舞台ならではでおもしろさですよね。

これから大阪と福岡の公演を控えていますが、それと並行して現在は次の『SPY×FAMILY』の稽古中。結構なハードスケジュールで大変じゃないですか?


むしろ、本当にありがたいです。ただ『SPY×FAMILY』も本番まで1ヵ月ぐらいしかなくて。前回は私のハプニングもあり、ギリギリでの稽古参加でしたが、今回もかなり稽古期間が短いです。

『SPY×FAMILY』は2023年から2年ぶりとなりますが、再演が決まったときはどう思いましたか?


再演は初めてなのですごくうれしかったです。というのも初演のときは自分のことで精一杯で緊張しかなくて正直怖かった。実力もないし、歌も「いつ失敗するかわからない」って自信がないし、帝国劇場という舞台に立たせてもらうのも初めてだし……。「レジェンドと呼ばれるような役者さんたちがいるなかに自分が立っていいのか?」と恐縮してしまい、恐怖感でいっぱいだったんです。でも、今回はこの2年間の経験が味方をしてくれるんじゃないかなって思っていて。初演後いろんな作品に出させてもらいましたが、その経験がすべて糧になっていると感じながら稽古に参加させてもらっています。そもそも私が舞台のお仕事を始めたのは2021年なんですけど、そのわずか2年後に帝劇の舞台に立たせてもらったのは奇跡。当時は無我夢中で理解が追いついていなかったんですけど、すごいことだったんだなって今回改めて実感しています。


再演のプレッシャーはありますか?


再演ものが初めてなのでどんな心持ちでいればいいのかわからなかったんですけど、先輩方は「(前回の舞台を)思い出せるかなぁ」って意外とラフなんですよ。でも皆さんリラックスしつつ、この2年間で培ってきたものを活かし、できる限りの準備をされていると思うので私も前回を超えるというよりはできることをやり、その上で新たなフィオナ像を作れたらいいなと思っています。

では演じ方も変わりそう?


変わる気がします。フィオナパートの稽古はそんなにやっていないのでまだ練れてはいないですけど、昨日初めて全体で歌稽古をしたとき、わかってはいたのですが「フィオナのパートってこんなにギャグパートだったっけ?」って思いまして(笑)。

前回の舞台を拝見したときもフィオナパートでいちばん笑いました。真剣にキレ散らかす山口さんがおかしくてコメディセンスのある方だなぁって。


ありがとうございます。前回は真剣にやればやるほどおもしろいって信じてやっていました(笑)。でも今回はもうちょっと客観的に捉えてもいいかなと考えていて。コメディってやりすぎるとイタくなる可能性もあるから微妙な塩梅が必要で、ちょうどいいところを今探している最中です。

でもフィオナはクセのある役だから、どうやってもおもしろくなってしまう気がします。


本当に大グセですよね(笑)。しかもフィオナが歌う「組曲・フィオナの野望」ってパートは組曲になっているので17分くらいあって長い。そのなかで歌って芝居してまた歌って芝居してっていうのがずっと続くから歌稽古のときも皆さん「長いね〜」って(笑)。でも「素敵」って言ってくださいましたし、今回は伴奏やシーンの作り方もかなり変わり前回よりアンサンブルさんにいていただく構成になるので、より見応えがあると思いますよ。

前回はフィオナがソロで歌い上げるシーンも多かったですけど、そこは残しつつ?


そうですね。でもソロはさらに音域が広がります。前回はいちばん低いところが“シ”の音だったのですが今回はそこから3音下がっているので下は低い“ソ”から高いところは“ド♯”まで出さないといけない。この2年間で声帯もそれなりに鍛えられて低いところはだいぶ響くようになりましたけど、高音はまだまだ気合いで出すって感じです。

山口さんの歌声は高音になるほど透明感が増して響く印象があるのですが。


本当ですか? でも今回はもうちょっとゴツくなりたい。声の圧を強めたいんですよね。圧といっても声質によって種類もトレーニング法もいろいろあって鼻から「ウー」って抜ける声もすごく通るじゃないですか。あれもひとつの圧ですし、たとえば俳優さんだと阿部寛さんの声も圧がある。要は声の響き方によって圧の形があると最近学びまして。骨格や口、鼻の大きさによっても変わるらしく、声も楽器だから圧を強くするために皆さん自分の声がいちばん響くところを探しているんじゃないかなと思うんですよね。

「声は楽器」ってすごくわかります。奏で方=歌い方で聴こえ方がまったく変わりますし。


しかも今回フィオナパートは切ないメロディが増えているので全体の印象も変わると思います。歌唱以外のメロディだけの音楽もずっと切なくてより原作に近寄っている。原作ではロイド先輩に対して「何で追いかけてくれないんだろう」ってフィオナの恋心が描写されているんですけど、そういったところを今回は音楽で表現しているんです。同時にヨルをすごく小バカにしてる感じも前回より強くなっているんですよね。


前回は任務とはいえロイド先輩の“妻”になっているヨルに対して終始攻撃的でしたよね。


大嫉妬していました(笑)。でも今回は「(バカにしたように)ふん!」ってちょっと余裕があるんです。音楽的にはフィオナの曲は全部三拍子で“1、2、3、1、2、3”と跳ねるようにスイングする音階になっているのですが、その部分が強調されて跳ねるたびバカにしている雰囲気が出ている。だからニュアンスとしては「ダメ!」って強めな感じではなく「本当、あんたってできないね、ダメだね」みたいな、前回嫉妬でブチギレていたところが全部小バカ感のあるスイングに変わっています。

おもしろいですね。あとフィオナといえば凛とした勇ましい立ち姿も魅力でした。


今回はどうやって立とうかなと思っています。前回は絶対お決まりで(姿勢を正して)こういう立ち姿になっていたのですがそれを映像で見直したとき、ちょっと変えてもいいかなと。崩したほうがいいところもいっぱいあったので今回はもう少し自由に身体を動かそうかなと思っています。

初演を観ている側からするとそういった変化を発見するのも楽しみのひとつですが、改めて『SPY×FAMILY』が多くの人に受け入れられる理由は何だと思いますか?


すごく重いテーマを扱っているけど、その重さを残しつつコメディにしているところが最大の魅力だと思います。戦争を描いていますがアーニャ(ロイドの養女になる子ども)というキュートでかわいい存在で癒すっていうアンバランスさが絶妙。ギャグのシーンは照明がパキッと変わって音も止まって「さぁ笑え」ってシンプルに笑わせてくれるところもいいですよね。あとアンサンブルさんの歌がとにかく素晴らしい。それこそ声の圧が圧倒的に届いてくるのを体感したら大満足してもらえると思います。

山口さん個人の見どころを挙げるなら?


フィオナパート以外でアンサンブルのひとりとして参加しているところ。ウィッグとか扮装も全部変えてオープニングから登場してロイドさんの横とかで踊ってますよ(笑)。

それ、知らないで見ていたら気付かないですか?


隠す感じでもないので「おや?」って思うかも(笑)。でも自分が出ていないのにたとえに出すのはあれですけど、『レ・ミゼラブル』とかも主要キャストが最初は市民として出ているとか、舞台はそういう演出が結構あるみたいです。私も2幕の頭まではアンサンブルで出ているので探してみてください。

探します! 楽しみが増えました。公演は9月20日(プレビュー公演)からスタートして年末まで続きますが、長期公演で心掛けていることは?


体調を崩さないこと。最近免疫力が落ちているのか3ヵ月に1回は風邪を引いているのですごく怖くて、とにかく予防を心掛けています。実は前回の『SPY×FAMILY』のときは恐怖感からくるストレスですごく痩せてしまったんです。当時は「これはいちばんのダイエットだな」なんて思っていましたけど(笑)。

それで体調を崩したら大変。メンタル大事です。


すごく影響しますよね。でも今はもう体重を戻したというか、戻っているのでメンタル面はたぶん大丈夫かなと。なので、とにかく予防予防で毎日気をつけながら気合いで乗り切ろうと思っています。


STAGE information
Musical『SPY×FAMILY』
日程/【プレビュー公演】9月20日(土)〜9月28日(日) ウェスタ川越 大ホール
【東京公演】10月7日(火)〜10月28日(火) 日生劇場
その他、大阪公演・福岡公演・山形公演・静岡公演・愛知公演あり
料金/【平日】S席¥15,000、A席¥10,000、B席¥5,000
【土日祝日・Wキャスト千穐楽※】S席¥16,000、A席¥11,000、B席¥6,000
※10/27(月)17:45開演の部&10/28(火)12:30開演の部
原作/遠藤達哉(集英社「少年ジャンプ+」連載)
脚本・作詞・演出/G2
作曲・編曲・音楽監督/かみむら周平
キャスト/ロイド・フォージャー:森崎ウィン / 木内健人
ヨル・フォージャー:唯月ふうか / 和希そら
アーニャ・フォージャー:泉谷星奈 / 月野未羚 / 西山瑞桜 / 村方乃々佳
ユーリ・ブライア:瀧澤翼 / 吉高志音
フィオナ・フロスト:山口乃々華
フランキー・フランクリン:鈴木勝吾
ヘンリー・ヘンダーソン:鈴木壮麻
シルヴィア・シャーウッド:朝夏まなと
加賀谷真聡(ドミニクほか)、依里(アクション吹き替え)、荒川湧太、岩﨑巧馬、大津裕哉、大場陽介、小熊綸、小倉優佳、鎌田誠樹、木村朱李、栗山絵美、桑原柊、島田彩、髙島洋樹、丹宗立峰、堤梨菜、早川一矢、深堀景介、本間健太、湊陽奈、宮野怜雄奈、森田茉希
ロイドの幼少期:多胡奏汰 / 土岐田凌
男子児童:大久保壮駿 / 釼持康心
製作/東宝
https://www.tohostage.com/spy-family/

photography_小池大介(小池大介写真事務所)
styling_粟野多美子
hair&make_福田翠(Luana)
text_若松正子


【衣装クレジット】
《RIM.ARK》のワンピース¥38,500(RIM.ARK)
《aura》のリング(右手)¥18,480、《h..》のスパイラルリング(左手)¥16,820、ロングチェーンイヤカフ¥8,580、オープンリング&イヤカフ¥16,280(すべて805showroom)

【お問い合わせ先】
RIM.ARK
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