2025.5.12

Take Me Out
八木将康

  • 劇団EXILE FC対象
  • 一部フリー
メジャーリーグを舞台に同性愛者であることを告白した名選手と、そのチームを描いた舞台『Take Me Out』。本作はトニー賞受賞作で日本でも初演・再演合計60公演を重ねているが、この春、7年ぶりに再始動。しかも再演を支えたオリジナルメンバーの「レジェンドチーム」とオーディションを勝ち抜いてきた「ルーキーチーム」の2チーム体制で行う新たな試みに。「ルーキーチーム」に出演する八木将康は物語を進める重要な役を務めており「責任感を持ってやりたい」と緊張と期待感で高まる心境を吐露。またインタビュー当日は制作会見日だったのだが、会見前に「レジェンドチーム」と「ルーキーチーム」で野球の試合も開催。その感想と併せ、自身が参加するLDHの野球チーム・中目黒リュージーズメンバーとの交流についても話を聞いた。


今作は参加者330人という難関オーディションを突破してつかんだ作品。八木さんはこの世界に入ったきっかけも『VOCAL BATTLE AUDITION』ですし、やはりオーディションに強いのかなと思いました。


そうかもしれないです。緊張よりも楽しんでやるっていう感覚があって(オーディションに)強いわけじゃないけど、いかに爪痕を残すかみたいな攻めの姿勢で受けると評価していただけることが多くて、逆に守りに入ったら絶対落ちるんですよね。

以前のインタビューでも、ヴォーカルのオーディションは緊張したけど、芝居のときはなぜか緊張しないとおっしゃっていましたね。


前はそうだったんですけど、30代後半になってから緊張するようになってきました。何でだろうって考えると、たぶん責任感が増したからなんですよね。責任を全うしなきゃという想いが強くなってきて、それが緊張につながっている。だからミスが怖いとか萎縮しているわけじゃなく、むしろワクワク興奮している部分があって変な緊張ではないんですよ。

武者ぶるい的な“攻めの緊張”ですね。だからどこか余裕もある。


だと思います。若いときは自分のことでいっぱいいっぱいだったから、そういう状態になれなかったけど、お芝居ってどこか俯瞰で自分を見なきゃいけないポイントが必ずあって。そのポイントが少しわかるようになってきて、自分を客観視する方向に持っていけるようになった。ようやくって感じですけど、ちょっと大人になったのかもしれないです(笑)。しかも今回は僕にとってはめずらしいシリアスな題材ですし、僕が演じるキッピーはすごくしゃべる役なのでより責任感が増している、これまでの舞台のなかでも一番セリフ量が多いのですが、1ヵ月半の稽古期間中にどのくらいまで完成度を高められるか、そこもワクワクしています。

キッピーは中立的なポジションで、どちらかというと“受け”の芝居が多い役。いろんな俳優さんから“受け”の役は難しいと聞くのですが、いかがですか?


かなり難しいです。本読みをしていても解釈が何通りもできる役で、今演出の藤田(俊太郎)さんとも相談中なんですけど、僕の最初の解釈とはキャラクターがまるで違う。でもそこがすごくおもしろいし、藤田さんによると「レジェンドチーム」のキッピーと「ルーキーチーム」のキッピーは真逆のキャラクターでいくらしくて。演出自体も変えるので、両方のキッピーを観てもらいたいです。

八木さんのキッピーはどんなキャラクターに?


僕が得意としている陽気な感じです。みんなをわっとまとめるキャラクターで、「レジェンドチーム」のほうは逆にシリアス系になるのかなと。でも稽古をしていく中でガラッと変わっていくかもしれないし、僕の中でシリアスなキッピーはあまり想像ができないけど、周りは手練れの役者さんばかりなのでどんなキャラクターが作られていくのか楽しみ。稽古は始まったばかりですけど、すでにいろんなアイデアが生まれてきているので、キッピーだけじゃなくほかの役もどんどん肉付けされておもしろくなっていくと思いますよ。

キッピーはある意味チームの良心を代弁している役。それゆえに罪深い一面もあるのかなと。


素晴らしい。まさに藤田さんもそうおっしゃっていてキッピーは無自覚にいいことをしようとしているけど、そこが罪深くなってしまう。でもそういう人ってよくいるから想像はしやすいですよね。僕自身、劇団EXILEの中でも間に入って仲介するタイプなのでキッピーの気持ちはすごくわかる。こういう人って八方美人で周りから「お前、結局どっちなんだよ」って言われちゃうんです。でもキッピーはキッピーなりの葛藤や悩みがあって、そこらへんは少なからず理解できます。

「八方美人」って言うとマイナスイメージがありますけど、見方を変えると違う意見や立場を受け入れる大きな器を持っているということ。八木さんもそういうタイプなんですね。


……自分で「大きな器」とはなかなか言えないですが(笑)。

柔軟性があるというか。


確かに柔軟性はある気がします。僕、良くも悪くも環境に左右されやすくてシリアスな現場だと自分もシリアスになるし、楽しい現場だと本当に楽しくなっちゃう。だからどこに行ってもなじめるというか。癖があってカラーが強い人の強みもありますけど、僕みたいに無色の強さっていうのも、もしかしたらあるかもしれないです。

特にキッピーのように“受け”の役は「無色の強み」が活かされる気がします。そもそも今作はストーリー自体解釈の幅が広くて、いかようにも捉えられる。ラストも取り方によっては不条理に感じるのですが八木さん自身はどう解釈しましたか?


たぶん「レジェンドチーム」と「ルーキーチーム」では違ってくると思うけど、今のところ、僕は不条理なラストではないと思います。まぁ、でもそこらへんの解釈は同性愛者であることを告白するダレンと彼の理解者であるメイソン次第だと思っていて、彼らをどう作っていくかで見え方も変わっていくんじゃないですかね。


「ルーキーチーム」の強みはどんなところだと思いますか?


「ルーキーチーム」はどちらかというとわかりやすい方向にいくかもしれない。セリフだけじゃなく試合をダンスで表現したりとか、そういった演出も入ってくるのでかなり躍動した舞台になるんじゃないですかね。

ダンスシーンは想像がつかないです(笑)。そういった演出も可能になるほど懐の深い脚本ということですね。


本当によくできていると思います。でも藤田さんもおっしゃっていたけど、原作者の方もここまでいろんな解釈や後づけをされるとは思っていなかったらしくて。作者の意図を離れ、受け手によるさまざまな解釈が生まれ、掘れば掘るほど深くなっていく。そういう作品がこうやってのちにも受け継がれていくんだなって思いました。

ちなみに今日は制作会見前にキャスト同士で野球の試合も行われました。甲子園出場経験もある八木さんとしては腕が鳴ったのでは?


んー、そこまで活躍できませんでした(笑)。一応、1アンダー1打点しましたけど、一打席目はフライを上げてダメだったし、守備もちょっとエラーをしてしまいまして……。みんな僕に期待してくれていて「来た来た」って感じだったから「見ていてください!」って力みすぎちゃったんですよね。チームには野球未経験のキャストの方もいらっしゃったのですが、その方のほうが活躍されていて経験の有無は関係なかった。でも、そこが野球のおもしろさでチームプレイだからひとりが活躍しても勝てない。その代わり個々の能力が低かったり体格差があっても親和力でカバーできたりするんですよ。ただ今日、僕の調子が悪かったのは単にトレーニング不足。本当に身体が動かなくなっていて、今回の舞台は脱ぐシーンもあるのでもっと鍛えないとダメですね。

試合をしたことでチームの士気も上がったと思うのですが、八木さん的に注目しているキャストはいますか?


岩崎MARK雄大さん。今日知ったんですけどMARKさんは東京大学出身で僕、人生で初めて東大出身の人に会ったんです。東大に行って役者やっている人ってあまりいないじゃないですか。実際、MARKさんはメチャクチャ頭が良くて、藤田さんも相当頭がいいんですけど対等にしゃべっている。ふたりの会話を聞いているともう異次元です(笑)。でも僕もMARKさんにいろいろ相談していて。彼は原作も英語で読んでいるので解釈について教えてくれるし、思っていることも伝えてくれるのですごく頼りになる。今いちばん信頼しています。

意欲的に取り組んでいる様子が伝わってきますが、今作を通して学びたいこと、成長したいことは?


以前は役に憑依して一体化するようなお芝居を目指していたのですが、それだと僕自身のキャパでしか表現できなくなるなと。そうならないためには、さっきも言ったように自分を俯瞰で見なきゃいけないって気付いたのが去年あたりで。上手い人は演じている自分を客観的に見てコントロールできるといいますか。魔術師のように自分を操り、自分を超えた表現が可能になるみたいなんです。僕もそこを目指していて、今回の作品もいかに自分を俯瞰で捉えて操れるか、そしてどう舞台上で躍動するかということが目標。キッピー役は出番も多く難しいぶん、より学べる気がするので僕をずっと応援してくださっているファンの皆さんにも成長した八木将康を観ていただきたいです。

作品全体の見どころは?


まず広いグラウンドでやる野球を演劇という小さなステージでどう表現するかというところに注目してほしいです。グラウンドになったりロッカールームになったり会議室になったり、いろんな場面が出てくるのですが、舞台という空間の中でそれを見せるための演出や仕掛けもあるみたいなので楽しみにしていただけたら。僕もこの作品の魅力をフルに伝えられるよう、「ルーキーチーム」の一員として務めていくつもりです。でも、できれば「ルーキーチーム」だけじゃなく「レジェンドチーム」のほうも観てもらいたい。両方観ることでこの作品の素晴らしさをより感じられると思います。


STAGE information
舞台『Take Me Out』2025
日程/5月17日(土)〜6月8日(日)
全30公演(レジェンドチーム 20回、ルーキーチーム 10回)
会場/有楽町よみうりホール
その他、名古屋公演、岡山公演、兵庫公演あり
料金/レジェンドチーム¥9,800/ルーキーチーム¥7,800/2チーム観戦チケット¥16,000[レジェンドチーム・ルーキーチーム各1公演ずつ、計2公演](全席指定)
作/リチャード・グリーンバーグ
翻訳/小川絵梨子
演出/藤田俊太郎
出演/
レジェンドチーム:玉置玲央、三浦涼介、章平、原嘉孝、小柳心、渡辺大、 陳内将、加藤良輔、辛源、玲央バルトナー、田中茂弘
ベンチ入り(スウィング):本間健太
ルーキーチーム:富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、
島田隆誠、岩崎 MARK 雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO
ベンチ入り(スウィング):大平祐輝
製作/シーエイティプロデュース、エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ
企画/シーエイティプロデュース
https://takemeout.jp

photography_小池大介(小池大介写真事務所)
text_若松正子

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