2024.11.8

小説『選択』刊行記念イベント
岩谷翔吾

  • THE RAMPAGE FC対象
  • 一部フリー
10月10日、岩谷翔吾の小説家デビュー作『選択』が発売された。本作の原案は岩谷の高校の同級生である俳優・横浜流星さんが手がけ、4年ほど前からふたりで物語を構築していった作品。発売日翌日には、都内で刊行記念イベントが行われ、岩谷が今作に込めた想いや制作エピソード、さらに今後の制作についても話した内容をインタビュー形式でお届けする。

完成した『選択』を手にしたときの感想を教えてください。


シンプルに「ようやく形にできたな」と思いました。今作は4年間、孤独の中で書き続けてきたものだったので、その孤独の暗闇にやっと光が射したなと、手に取ってくださる方々に改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。

表紙の装画はYKBXさん、帯は三浦しをんさんです。


表紙はYKBXさんに描いていただきました。こだわり抜いた表紙なので、自分もメチャクチャ気に入っています。そして帯は三浦しをんさん。ありがたいお言葉をいただきました。しをんさんの作品なしでは『選択』は誕生しなかったといっても過言ではないくらい、執筆するうえで、しをんさんの文章が自分の格になっているので、デビュー作にしをんさんが推薦文を書いてくださり、本当にありがたく思っています。

小説『選択』のあらすじを簡単に教えてください。


今作には、亮と匡平というふたりが出てきます。冒頭で、父親を殺そうと父親の元へ向かっていた亮が、自殺しようとしていた匡平と出会います。父親を殺そうとしていたところを匡平に止められる亮、自殺をしようとしていたところを亮に止められる匡平。このふたりに共通しているのは、命と向き合っているということ。矢印の方向や角度は違えど、同じものに向き合っていたふたりが意気投合し絆を深めていく。その冒頭のシーンから10年後、亮は後輩を助けるため特殊詐欺グループに身を置きます。つまり犯罪を犯してしまうわけです。亮と匡平が直面した異常な現実、そしてその先に見えたものとは? という物語です。

この本を書くきっかけになった出来事があるそうですが、それはどのようなものだったのでしょうか?


今作は、アメリカのとある動画がきっかけとなって着想にいたりました。その動画というのは、とある男性が複雑な感情で泣き崩れてしまうというもの。その動画を見て、その男性の今までの人生を考えていたら、「どういう選択をしたらこういう感情に行き着くんだろう」という問いに変わり、それを物語として書いてみたいなと思って書き始めました。

そんな本作に込めた想いをお聞かせください。


タイトルに『選択』とあるとおり、人生は選択の連続。いい選択もあれば悪い選択もあります。自分自身も過去を振り返ると、後悔していることや、「あのときこういう選択していればもっとこうだったんだろうな」と思うこともあります。皆さんも、まったく後悔なく生きてこられたという方は少ないのではないでしょうか。しかも今はSNSなどで断片的に物事を捉えて、真実もわからずに匿名で攻め立てられたりする時代。そういう中で、今孤独の中にいる人や、「あのときこうしていれば」と後悔で苦しんでいる人に、少しでも希望や愛情が伝えられるような、背中を押せるような作品になればいいなと思いながら書きました。

執筆時にいちばん苦労したことはどのようなことでしたか?


今作は三人称で書いていて。亮の視点はすぐに書けたのですが、匡平を膨らませていくのに苦労しました。亮の一人称にしようかとも思ったのですが、亮の選択だけでなく匡平の選択も描くことで厚みが出る。だからどうしても三人称にしたくて。そこは苦労しました。

岩谷さんは本をテーマにした連載を持つなど読書家としても知られていますが、そもそも本が好きになるきっかけは何だったのでしょうか?


幼少期から本は身近な存在ではありましたが、THE RAMPAGEになってからがっつりとハマりました。そのきっかけは、10年ほど前に、THE RAMPAGEのメンバーであるヴォーカルの川村壱馬から『ルビンの壺が割れた』(宿野かほる)という本を借りたこと。メチャクチャおもしろくて一気読みしてしまいまして。そこから読書欲が爆発しました。それこそ今作で推薦文を書いてくださったしをんさんの作品も大好きですし、染井為人さんの『正体』という作品もすごく好き。染井さんは、今では公私ともに仲良くさせていただいていまして、『選択』も2年ほど前から原稿をお渡しして何度も読んでいただきました。しをんさんは、4年前のプロットの段階からお渡しして、お言葉もいただいています。先日、イベントをきっかけに凪良ゆうさんともお食事に行かせていただいたのですが、凪良さんの作品からの影響も大きくて。凪良さんの心情描写や人間関係、壊れそうな母親像などは勝手ながら参考にさせていただいています。カツセマサヒコさんとも仲良くさせていただいていますし、ありがたいことに著名な作家さんと公私ともに仲良くさせていただくなかで、自分の読書歴がどんどん分厚くなっていっていると思います。

しばらく読む側だった岩谷さんが、自分でも書いてみようと思ったきっかけを教えてください。


パフォーマーは、ステージ上で身体ひとつでお客さんに気持ちを届けています。それが僕の本業です。ヴォーカルが言葉を歌に乗せてお客さんに届けられるのに対して、自分は身体表現でしか気持ちを届けられないので、言葉への憧れが人一倍強かったんだと思います。もちろん身体表現も、言葉を超えて感動を届けられるので誇らしく思っていますけど、ないものねだりというか。そういう想いが強くなっていくなか、コロナ禍のステイホーム期間があって。ライヴが止まってしまったことで、自分の存在意義がわからなくなって、無力感みたいなものを、普段身体表現でステージに立っているからこそ感じて。その時期に、言葉で作品として自分の想いを届けたいという気持ちが積もり積もって今作を書き始めました。

THE RAMPAGEとしての活動もあるなかで、どうやって執筆する時間を作られたのでしょうか?


自分は書くことが大好きで。もちろん苦しいこともあります、自分を削りながら孤独と向き合う作業なので。でも何より楽しいし達成感がある。だから、時間は見つけるものなんだなと思いました。今まで何気なく過ごしていた時間の中で、「あれ、ここ執筆できるじゃん」「だらだら携帯を触っていた時間をなくせば、この時間は執筆に充てられるな」とか、そうやって時間を見つけて、寝る間を惜しんで書き進めました。

執筆する際のルーティーンは何かありますか?


基本は自宅で、パソコンで書くのですが、自宅の執筆部屋では電気をつけません。山彰さん(山本彰吾)からもらったスピーカーを間接照明がわりにして、パソコンの光と山彰さんからもらったスピーカーの照明だけの真っ暗な中で書いています。第三者がその部屋に入ってきたら震え上がるくらい真っ暗の中、パソコンに向かって、目バキバキの状態でカタカタやっていました(笑)。

先日、1ヵ月に1冊も本を読まない人が6割というニュースが話題になっていましたが、『選択』は若い世代にも読んでほしいという想いで執筆されたそうですね。作品を作るうえで、それはどのような形で意識されたのでしょうか?


今は情報にあふれていて、たとえばTikTokとかでも30秒だとちょっと長く感じてスクロールしている自分がいたりします。なので、よりスピード感は意識し、“一気読みできる”というものを目指しました。実際に読者の方からもそういった感想が続々と届いていまして。「初めて本を読んだけど一気読みした」「2時間で読み終わった」、むしろ「初めて本屋さんに行った」とか。自分としては、今作で新しい風を吹かせたいと意気込んでいたので、そういう声はすごくうれしいです。先日、LDHのお世話になっているスタッフに本作をお渡ししたら、その方は新幹線の中で読んでくださって、品川〜京都間で読み終わったそうなんです。2時間くらいですよね。そのあと京都から新大阪の間で、僕に長文の感想をLINEでくれました。また別の方……これはTHE RAMPAGEのメンバーの浦川翔平の話なのですが、翔平は普段まったく本を読みません。そんな翔平が「どんなもんじゃい」と思って最初の1、2ページを読んでみたら止まらなくなったと。「だったら10ページまで読んで寝よう」と思い、10ページまでいったら「続きが気になる」と思って……とどんどん読み進めたという話をしてくれたんです。その話を聞いて、作家冥利に尽きるなと思いました。まさにそういうことがしたかった。本は苦手だと思っている方や、本を読んだことがないから読めるかわからないなと思っている方も、騙されたと思って冒頭のページをめくってみていただきたいです。そうしたら、あとはジェットコースターのように流れに身を任せるだけだと思います。

タイトル『選択』にちなんで、最近して良かった“選択”と、失敗したなと思う“選択”があれば教えてください。


して良かったのは筋トレです。THE RAMPAGEは9月に東京ドーム公演を開催させていただいたのですが、東京ドーム公演に向けてメンバーみんなかなり身体を改造しまして。自分も体脂肪率を7%まで絞り、筋量も増やし、でも体重は減らして踊れる身体という、計算され尽くした身体を手にしました。でもその身体は筋トレを1日するだけででき上がるわけではなく、毎日積み重ねることによって得られるものだったので、自分自身が体現することによって説得力も増して、相乗効果につながったかなと思いました。失敗した選択は……先日、EXILE TETSUYAさんと、イベントで福井県の鯖江に行かせていただきまして。帰りの新幹線はTETSUYAさんとお隣の席だったんです。そこで、いただいたおいしいサバ寿司の駅弁を、後輩の僕が開けて醤油を……と作業していたんですけど、普段はやり慣れないことだったということもあって、お醤油をぶちまけてしまいまして。しかも運悪く、僕は白いパンツを履いていたんです。今、その白いパンツはクリーニングに出していますが、ちゃんと白くなって戻ってくるかは微妙なところです。無理して僕がやるんじゃなくて、先輩に甘えて「僕、ぶちまけてしまいそうな気がするのでお願いします」と言っておけば良かったなと思っています。

今後も小説は書き続けていきますか?


はい。1〜2週間前くらいから、実は2作目をメモ程度ですが書き始めています。『選択』を書き終えてちょっと燃え尽きた感じがあって、「次、書けるかな……」と思っていたのですが、書けると思ったきっかけがあって。それが先ほどの話にも出た9月のTHE RAMPAGEの東京ドーム公演。ずっと夢に見ていた東京ドーム公演を、フルキャパでやらせていただいたのですが、そのステージから見た景色は本当にかけがえのないものでした。一概に「夢をかなえた」「キラキラしていた」とかそういう想いだけじゃなく、10年分の一筋縄ではいかなった過去もすべて重なって、うれしいだけの感情ではなかった。そういう感情と向き合っているうちに、今度は自分のフィールドというか、自分にしか書けないものを書いてみたいなと思うようになりました。といっても、まだメモ程度の構想段階なので、ここで大風呂敷を広げて大丈夫かなと自分でも心配にはなっているんですけど(笑)。その作品ではなかったとしても、何年後になるかはわからないですが、作家・岩谷翔吾として絶対に2作目を書きたいなと思っています。



BOOK information

『選択』岩谷翔吾 (THE RAMPAGE) 原案:横浜流星/幻冬舎



『選択』
NOW ON SALE
定価:1,760円
仕様:四六上製 /160頁
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344042827/

photography_塩崎亨
text_小林千絵


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